ビデ夫人『ビデ夫人』ある登山家に「なぜ山に登るのか?」と尋ねたら「そこに山があるからだ」と答えたと言う。 僕に「なぜトイレにいくのか?」と尋ねたら「『なぜトイレ』って何? 僕の家はウォシュレット・トイレさ」と爽快に答えたと言う。 そんなわけで、ウォシュレットのトレイには『ビデ』がついてる。 ビデは女性のあんな所やこんな所をそんな所まで洗う装置であり、男にとっては秘密の花園である。僕なんかビデという単語をはじめて聞いたときは、デビ夫人の親戚かと思った。トイレの新機能にデビ夫人? なんだそれは? と思った。 人間は知らないものに対して、恐怖を感じると共に興味も湧くものだ。 初めてウォシュレット・トイレに座った僕も恐怖と興味が入り混じり、初めて都会に出てきた田舎の大将みたいにソワソワしていた。でもトイレでおにぎりは食べていない。 もともと座る前からウォシュレットとはお湯でおしりを洗うものだという事は知っていたが、いざ、おしりを洗ってみようとスイッチに目を落とすと『止』 『おしり』 『ビデ』なる選択肢が! 『止』はお湯を止めるだろうし、『おしり』はおしりだろう。おしりが頭だった事など古今東西例がない。 「ヘイ! ボブ、聞いてくれよ。俺のおしりが割れちまったぜ!」 「何言ってやがる、スティーブ。 尻はもともと割れてるだろうッ。HAHAHAHAHAHAHHA」 という心温まる会話も、おしりが頭だったりしたら、 「お――(絶命)」 「スティーブ! スティーブ! スティーブの頭が! あたまがぁぁぁッッ!!」 という具合に大変な事になるわけで、っていうか、そんなボブとスティーブの話はどうでもいいわけで、とにかく男にとってはミステリーゾーンな『ビデ』。 『ビデ』??? なんでございましょ? これは? こんな部位が人間の身体にあったかしら? と思わずデビ夫人口調で考えてしまうビデ。 まずは使ってみるべしと『ビデ』ボタンを押してみると、とりあえずお湯が出る。某所に当たる。某所にはあたるが当然おしりには当たらない。そんなわけで僕は身体をずらしてお尻に当ててみた。特に問題はない。お湯を止めてみた。……特に問題はない。そう、問題なく洗えてしまったのだ。ビデが何たるかも分からないままに。 大学のとある休憩時間。 「わたしん家やっとウォシュレットになったんだぁ~」 めずらしく女の子と会話していた僕は、速攻で答えたね。 「あぁ! ちゃんと洗えていいよね! ビデ!!」 ドン引き。もうドン引き。無自覚にセクハラだったと思う。 なんで男のアンタがビデ贔屓なの? っていうか使ってるの? なんで? そこまで飛び散らかしてるの? そう目が語っていた。 「スティーブ! スティーブ! スティーブの頭が! あたまがぁぁッッ!!!」 頭が割れた方がマシなぐらい恥かしかった。ビデなんてデビ夫人の親戚だとずっと思っていた方がマシだった。ビデ夫人。そんな二十歳の冬の出来事。 ランキングをクリックして頂くと、ビデ夫人愛好会に入れます。 |